







”マダム・シック”と暮らして人生が変わった!?
暮らしを取り仕切るマダム・シックと、家族の時間を大切にするムッシュー・シック。洗練された伝統的な生活の中で、ジェニファーは何でもない日々を優雅に、そして幸福にしていくための秘訣を発見していく。





「特別なこと」がないと幸せではない?







リビングの布張りのアームチェアで、ゆったりとくつろぎのひととき。刻みタバコの香りがふんわりと漂っている。天井まで届く窓からは、パリの街のやさしい夜風がそっと流れこみ、ゴブラン織りの美しいカーテンは優雅なひだを描いて、たっぷりと床に垂れている。ヴィンテージのレコードプレーヤーから聞こえてくるのは、クラシック音楽の調べ。食器はもうほとんど下げられ、ダイニングテーブルの上に残っているのは、食後のコーヒーカップとパンくずだけ──“フロマージュの王様”カマンベールチーズを載せてみんなでぺろりと平らげた、焼きたてのバゲットのかけら。
「Introduction 日常が突然、特別なものに見えてくる」より








マダム・シックに学ぶ、自分の定番スタイルのつくり方

「夕食の前に、お部屋でひと息つきたいでしょう。案内するわ」
この瞬間をわたしは心待ちにしていた。こんなに美しいアパルトマンだから、わたしのお部屋もさぞかし……と期待が高まった。
お部屋はとても素敵だった。シングルベッドには緑のベルベットのカバーが掛けられ、天井まで届く大きな窓の両側には草花模様のカーテンが掛かり、窓からは絵のように美しい中庭を眺めることができた。勉強にちょうどいい大きさの机もあり、小型のクローゼットもあった。
え、ちょっと待って!
小型のクローゼット?
それまでは何もかも順調だったのに、突然、頭が真っ白になりそうになった。思わず、荷物で膨れ上がった大型の2つのスーツケースに目をやった。
これがクローゼットなの?
クローゼットの扉を開くと──ハンガーがいくつか下がっているだけだった。わたしはとうとうパニックした。こんな狭いところに半年分の服を全部しまっておけっていうの?「Part2 ワードローブと身だしなみ」より



やがてすぐにわかったのだが、この家の人たちには、これくらいの小さな収納で十分だったのだ。というのも、各自10着くらいのワードローブしか持っていなかったから。ムッシュー・シックも、マダム・シックも、息子さんも、持っている服はどれも上質なものばかりだったけれど、彼らは同じ服をしょっちゅう繰り返し着ていた。
たとえば、マダム・シックの冬用ワードローブは、ウールのスカート3~4着に、カシミアのセーターが4枚、シルクのブラウスが3枚(パンツはめったに穿かなかった)。マダムの定番とも呼ぶべきスタイルがあって、それがよく似合っていた。「Part2 ワードローブと身だしなみ」より







「ジェニファー」マダムは言った。「ダメよ!イチゴは向きをそろえてきれいな円を描くように並べるの。丁寧にね!」
「え」わたしはタルトに目をやった。イチゴが無造作に並んでいる。これはこれでわたしには素敵に見えた──芸術的と思ってくれる人もいそうだけど。
マダムはわたしに手本を示そうと、タルト生地の外側から中心に向かって円を描くようにイチゴを並べていった。最後の方はわたしが並べ、真ん中にはふたりで選んだいちばんきれいなイチゴを置いた。そして最後に、仕上げのシロップを塗った。完成したタルトをほれぼれと眺めて、マダム・シックが言った。「これで完璧ね」
あの日、マダム・シックと一緒にイチゴのタルトを作ったことは、わたしにとって忘れられない経験になった。ささやかなことでも心をこめて行えば、毎日が素敵になると気づいたから。あの美しい小さなイチゴのタルトは、パーティー用でもなければ、来客用でもなかった。マダムが家族のために──ムッシューと息子さんのために──平日の夜に作ってくれたものだった。「Part1 食事とエクササイズ」より





